公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇第79回カンヌ国際映画祭 2026/5/12-23
  FESTIVAL INTERNATIONAL DU FILM DE CANNES

 

**主な受賞結果**
パルム・ドール Fjord Cristian Mungiu
グランプリ Minotaur Andrey Zvyagintsev
審査員賞 The Dreamed Adventure Valeska Grisebach
最優秀監督賞 Javier Ambrossi & Javier Calvo (for “The Black Ball”)
Pawe? Pawlikowski (for “Fatherland”)
最優秀女優賞 Virginie Efira, 岡本多緒 (for “急に具合が悪くなる”)
最優秀男優賞 Emmanuel Macchia,
Valentin Campagne (for “Coward”)
最優秀賞脚本賞 A Man of His Time Emmanuel Marre
名誉パルム・ドール Peter Jackson, Barbra Streisand
カメラ・ドール Ben’Imana Marie Clementine Dusabejambo
ある視点賞 Everytime Sandra Wollner
ある視点審査員賞 Elephants in the Fog Abinash Bikram Shah
ある視点審査員特別賞 Iron Boy Louis Clichy
国際批評家連盟賞 ・コンペティション:Fjord Cristian Mungiu
・ある視点: Ben’Imana Marie Clementine Dusabejambo
・批評家週間: A Girl Unknown Zou Jing
エキュメニカル賞 Fjord Cristian Mungiu

 *日本からの出品作品はこちらから



**概観**

 
屋外上映、
’シネマ・ドゥ・ラ・プラージュ’
が行われるビーチ

79回を数えたカンヌ映画祭。今回も華やかに開会した。この時期としては異例の肌寒さであったものの、期間中を通じて晴天には恵まれた。イスラエル−パレスチナ問題をはじめ世界各地の紛争は国際映画祭に影を落とし続けている。映画祭のディレクターや審査員、監督や出演者が記者から政治問題に関する意見を求められることも少なくない。「政治と映画/芸術」についての距離感についての議論も起こりがちでで、2月のベルリン映画祭の審査員長、ヴィム・ヴェンダース監督の発言が炎上したことは記憶に新しい。そこから学びを得たのか、今回の審査員記者会見では登壇者は想定されうる質問に十分な準備の上で臨んでいた感があった。審査委員長、パク・チャヌク監督は「政治と芸術を対立させる考え方自体が不自然」と語った。
アメリカ映画の不在が語られた回であった。2010年代までは映画祭メイン会場・パレ前の大通り、クロワゼットにはハリウッドメジャーの新作の大看板が華々しく並んでいたが、今はすっかり影を潜めている。それと呼応するように、アメリカの大作はカンヌをはじめ主要映画祭での露出が減少している。毎年カンヌ映画祭に必ず一作品以上は登場していた、いわゆる大作やスターの競演が話題となるようなハリウッド映画が今回は皆無であった。この変化の理由としては、映画祭での評価が芳しくなかった場合のダメージの大きさ、必要経費の高さ、加えて、映画祭でのお披露目なしでも十分に興行的に成功できることを証明している作品の存在(主にポール・トーマス・アンダーソンやクリストファー・ノーラン等、スター監督たちの作品ではあるが)といったものが挙げられる。今回の映画祭では実力派監督たちの見ごたえのある作品たちが並んでいたが、「華やかさ」でも抜きんでているはずのカンヌ映画祭としては全体的に地味な印象は免れなかった。


 今回の出品作品から見えてくる傾向として、題材としての「セクシュアル・マイノリティ」もはやマイノリティではなくなったと言えそうである。22本のコンペティションのうち、LGBTQ+を扱った作品を対象とする賞、クィアパルムの候補に7本も入っていた。また、毎年カンヌ(及び主要な)映画祭においては出品作品監督の男女比のバランスがたびたび取り沙汰されるが、映画祭アーティスティック・ディレクターのティエリー・フレモー氏が「男女比は平等に近づいている」と語ったように、女性監督の作品はコンペティションには5本、ある視点部門においては19本中11本にのぼっていた。


『テルマ&ルイーズ』の公式ビジュアルがカンヌを彩った。

 今年、ポスターやバナー等で会場やカンヌの街を彩ったのは、リドリー・スコット監督の『テルマ&ルイーズ』のビジュアルであった。同作は女性ふたりの冒険と友情を描いた名作ロードムービーで、映画における女性像の歴史に画期的な一石を投じた作品として今もなお高い人気を誇る。1991年のカンヌ映画祭でクロージング作品としてプレミア上映がなされ、2016年には、映画産業における女性の地位向上に貢献したとして、主演のジーナ・デイヴィスとスーザン・サランドンに「ウーマン・イン・モーション」の賞が贈られている(カンヌ映画祭とケリング社が主催)。そして2023年には4Kレストア版がカンヌクラシック部門にて上映された。カンヌ映画祭と縁の深い傑作である。









*受賞結果*


 コンペティション部門の今年の審査員メンバーは、俳優のデミ・ムーア、ルース・ネッガ、ステラン・スカルスガルド、アイザック・バンコレ、クロエ・ジャオ監督、ローラ・ワンデル監督、ディエゴ・セスペデス監督、脚本家ポール・ラバティ、そして審査員長に韓国のパク・チャヌク監督の9人で構成された。コンペ部門の22本のうち、圧倒的な評価を得た作品はなかったものの、高評価を得ていた数本がどのような受賞結果として落ち着くのか、またはサプライズが待っているのか、賞の行方が注目された。サプライズは少なく、総じてバランスの取れた受賞結果であったと言える。最高賞のパルム・ドールはクリスチャン・ムンジウ監督の『Fjord』に授与された。ムンジウ監督は『4か月と3週間、2日』(2007年)でのパルム・ドール受賞歴があり、「パルム2回目受賞監督」の仲間入りをした(他に今村昌平、ダルデンヌ兄弟、オストルンド、ケン・ローチ等10組がいる。ちなみに3回受賞者はまだいない)。受賞作『Fjord』は、多様性を尊重するはずの社会が抱える不寛容さを、転居した土地の人々に翻弄される家族に通じて描き出し、高評価を得ていた作品のひとつであった。次点のグランプリはロシアのアレクセイ・ズギャビンツェフによる『Minotaur』。社会風刺を残酷さと洗練の中に描き、完成度の高さが際立つスリリングな作品で、こちらも納得の受賞といえる。加えて下馬評の高かった『Fatherland』は、パヴェウ・パヴリコフスキ監督が監督賞を獲得した。日本の濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』もパルム・ドール候補の有力候補として目されていた。結果は主演の日仏ふたりの女優、ヴィルジニー・エフィラ氏と岡本多緒氏が揃って最優秀女優賞を受賞し、岡本氏は日本人初の女優賞ということで日本において特に大きな話題となった。3時間16分の中でほぼ画面を支配していたふたりであり、堂々たる受賞であった。最優秀男優賞もルーカス・ドン監督作、『Coward』中で、同僚の兵士を演じたふたりが受賞者となった。今年のビジュアルは『テルマ&ルイーズ』であったが、奇しくも同性同士の友情と絆に焦点が当たった作品たちが受賞を果たしている。

 コンペ部門の22本のうち、半数以上がコンペ部門初選出でもあったことも注目したい。「選ばれるのはいつも同じメンバー」という声が映画関係者たちからは長い間聞こえていたが、そのトーンは弱まっている。世代交代にも着実に取り組んでいるカンヌ映画祭である。




**日本映画**



『箱の中の羊』上映後、観客の拍手に応える
(左から) 大悟氏・ 纐リ里夢氏
・是枝裕和監督・綾瀬はるか氏

 昨年に続き、カンヌ映画祭における日本映画出品数ということでは史上最多を更新した。なかでも3本の日本作品が公式部門のコンペティション部門入りしたのは25年ぶりの快挙であった。25年前にコンペ入りしていた是枝監督が今回も選出されたことに感慨を覚える。是枝監督のコンペ部門出品は今回の『箱の中の羊』で8本目とのこと。ある視点、カンヌ・プレミア、クラシック、ラ・シネフ、並行部門の監督週間にもそれぞれ選出された。出品作品数もさることながら、国内での人気を誇る俳優たちが次々とカンヌ入りを果たしたため、日本のメディアの報道も例年以上に力が入っていた。後述するマーケットにおける「カントリー・オブ・オナー」国であった日本。そのことと公式出品作品数の多さの関係を思う人々は一定数存在したようだが、まったくの偶然であり、素晴らしいタイミングだったという以外ない。 三度目のコンペ部門出品となった濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』は上映後、特に大きな反響を呼び、受賞を期待する論評を多く目にした。深田晃司監督『ナギダイアリー』はカンヌ映画祭出品としては7回目で、初のコンペ部門出品となった。ある視点部門は近年では新進監督の登竜門的な存在になっている。岨手由貴子監督による『すべて真夜中の恋人たち』は、岨手監督にとっては長編2作目の作品で、カンヌデビュー作となった。原作は欧州でも人気を博している作家、川上未映子氏の同名小説。岨手監督の確かな演出力と両主演の繊細な演技に好意的なレビューが並んだ。


レッドカーペットに並ぶ『急に具合が悪くなる』チーム。
(左から)長塚京三氏、黒崎煌代氏、ヴィルジニー・エフィラ氏、濱口竜介監督、
岡本多緒氏、ジャン-シャルル・クリシェ氏、マリー・ブネル氏


『すべて真夜中の恋人たち』上映前の舞台挨拶。
マイクを持つ岨手監督、岸井ゆきの氏(右から2人目)、浅野忠信氏(右端)


『黒牢城』上映時、大歓迎を受ける
黒沢清監督(中央)

カンヌ・プレミア部門には黒沢清監督の『黒牢城』も大いにカンヌを沸かせた。監督の登場時の盛り上がりからも黒沢監督のフランスでの人気ぶりが窺えた。上映後には熱烈なスタンディングオベーションを受けた黒沢監督は「心からの拍手をいただけた」と満足そうに語った。毎年のように日本作品が選出されるクラシック部門。今回は『姿三四郎』(黒澤明監督)の4Kデジタルリマスター版が選ばれた。長年にわたり欠落していた12分を含む91分でのリマスターであり、石川慶監督が作品紹介の任を負った。並行部門の監督週間には長編・短編それぞれアニメーション作品、カンヌ初出品の作家たちの『我々は宇宙人』(門脇康平監督)、『エリ』(矢野ほなみ監督)が選出された。




『我々は宇宙人』上映前の舞台挨拶。
マイクを持つ門脇監督、坂東龍汰氏(右から2人目)、 岡山天音氏(右端)

 フランスの名門レンズメーカー、アンジェニュー社が設けている、映画撮影芸術に大きく貢献した撮影監督をたたえる「ピエール・アンジェニュー・トリビュート賞」を撮影監督・芦澤明子氏が受賞した。アンジェニュー社がカンヌの公式パートナーとなった2013年に創設されたこの賞は今年で13回目を迎え、2021年のアニエス・ゴダールに続き、芦澤氏は史上2人目の女性受賞者となった。深田晃司監督、岡本多緒氏らは受賞式会場に駆け付け、黒沢清監督や役所広司氏はビデオメッセージにて芦澤氏を祝福した。



「カントリー・オブ・オナー」


カンヌ国際映画祭に併催された映画マーケット「マルシェ・デュ・フィルム」は、毎年ひとつの国を重点的に取り上げており、選定された国「カントリー・オブ・オナー」はさまざまな形で注目を集める機会を得る。2024年はスイス、2025年はブラジルに続き、今年の「カントリー・オブ・オナー」となった日本は、業界団体等で実行委員会を組織し、マルシェ・デュ・フィルム、経済産業省、日本貿易振興機構(JETRO)と一体となって、日本をアピールすべく様々な企画を立て、実行した。会期中には日本の強みとするコンテンツIPに関するカンファレンス、日仏共同製作促進に向けたプロデューサーの個別ミーティング、コンペティション部門に選出された歴代日本映画の特集上映、ワークインプログレス(製作段階)作品の紹介、配給や上映のチャンスを得るためのプログラムなどが実施された。また「カントリー・オブ・オナー連携企画」として民間企業や教育機関が開催する日本映画・文化関連イベントが34件開催された。











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